今泉の絹の話

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七夕まつりは絹祭り

今日の様な七夕祭りがどこで起こったか定かではない、中国の古文書等にもそのような記述がないようです。ですから自由な想像をめぐらすのもたいへん面白いので、少し遊んでみましょう。

絹は中国で5千年も前から産業として生産され始めた事は以前に書きました。ここで言う絹とは地球上に生息する10万種類余の絹を作る生物の中から、繭を作る昆虫を選び、野外には蓑虫や柞蚕の様に比較的大形で主に茶褐色をした繭は数多くあるのに、桑の葉を食べる小さくて頼りなげなクワコと云う白い繭を永きに渡って改良を重ね生糸を採る事に成功し、今日で云う家蚕繭から採る糸を言います。その頃、世界各地で人々はその地域にある各種野蚕繭から糸を紡いで利用してきた様です。生糸とは蚕が吐いた一本の糸を何本か寄合わせた物(当時の繭からは300m前後、現在の繭からは1500m前後)。生糸を精錬すると、紡ぎ糸に比べ格段に艶が有り、薄く、しなやかで、当時としては何物にも比較出来ないほど美しかったと思われます。それに比べて野蚕の繭から糸を採るのは、繭からスルスルと糸が出て来なく、苦労するばかりで生産が上がりません。今日でも同様です。そのような事から桑コに着目したのは当然と言えるでしょう。この成功は今日の原子力以上の意味を持っていると言っても過言ではありません。

こんなに美しい物を権力者が看過する訳が有りません。殷や周のように強大な権力が確立されて来ると、絹の生産、販売等を手中に収め莫大な利益を得られる様になり、権力の基盤も安定して来ます。その頃には天文学も発達し星座にまつわる色々な話が一般に語られるようになっていたと思われます。

春の桑の葉を食べて育った蚕が6月上旬繭を作り、生繭を乾繭にして、生糸を採り、織る人に手渡す頃が丁度、天の川がきれいに見える頃になります。牽牛(養蚕夫)から織女に渡る時です。

絹づくりのめやすは七月七日が農から工へ移行する時とし、天子は美しい織物が出来る様に天の川に祈り、庶民は絹増産のお祭をしました。繭の生産は夏コ、秋コ、と休みなく早朝から深夜まで寝る暇が無いほど過酷な作業が続くので、その中間の梅雨の晴れ間の様な骨休みの一日なのです。今日で言えば、村興しの殖産興業祭りでしょうか。七夕まつりを星祭りにしたのは、美しい織物を織るには少し湿度のある人のざわつかない静かな夜です。静寂で星の降る様な夜には透ける様なしなやかな物が織れると信じられていたのでしょう。今でもインドでは、織り上がる迄家族とも会わず、一気に織ります。

中国は古代からどの王朝も絹の生産方法を秘密にしてきましたので七夕まつりが絹の振興祭りであれば、その本旨は物に記したりしなかったと思われるので、本当の事が伝わっていないではないでしょうか。3,000年ものながきに渡って絹の製法の秘密を守り通して、その独占的利益で栄華を築いて来た執念には敬服するばかりです。

今日でも中国は最古の古代繭をえんえんと毎年採卵して、種の基を保持していますが、世界の学術会議であろうが何であろうが、決して公開しません。日本でも蚕種を保存するセンターが小淵沢に有りますが、明治以降のもので、中国に比べればほんの僅かなものに過ぎません。5,000年の歴史の中で日本が中国に勝るのは明治前期より以降100年にすぎず、昨今では質量ともに比較になりません、絹及び蚕がレアメタルの様に先端産業に不可欠な物になる時代が来ないとも限りません。

七夕まつりには誰も語らないもう一つ大事な事が隠されています。

七夕には竹に短冊を吊るします。今日では色々な色の紙の短冊ですが、本来は絹紙の短冊を吊るすのです。  繭から糸を作る過程で、毛バやら屑糸等沢山でます、殆どは紬糸等に加工しますが、ほこりの様な屑を細かく切って、トロトロになる迄煮込んで漉いて紙を作ります。この紙の短冊に願い事を書いて吊るすのです。七夕まつりは紙作りの祭りでもあるのです。

絹は余す所なく使うエコ産業なのです。そのような利用方法は今日では紙への利用はほんの少しですが、パウダにして、化粧品やサプリメント、食品添加など巾広く利用されています。

紙と云う字には糸へんを書きます、糸と云う字の象形文字は三つの繭から三本の糸がよじれて上がって行く様子を表したもので、漢字が出来る時、絹を使って出来ている物は糸へんを書いたのです。ですから綿は絹綿を表し、棉は木綿綿を表します。漢字ができる頃までは紙は絹で作られていたのでしょう。

古代の七夕の短冊に色々な色の短冊が有ったかどうか知るよしもありませんが、絹は木綿と違って非常に染色性が良く、ムラにもなりにくいので、草木で染めた色とりどりの短冊が風になびいていたと思うと実に心豊かになります。

いにしえの様に絹漉紙の七夕まつりをしてみたいものです。

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